転換期を迎えたCO2

デューイ松田

映画作家の人材発掘と制作支援を目的として 2005年に大阪市が立ち上げたCO2=【シネアスト・オーガニゼーション大阪エキシビション】。モデルとされたのは韓国の「チョンジュ国際映画祭」のデジタルプロジェクト【三人三色】だ。名の知れたアジアの若手監督に500万円を助成し次年度の映画祭で新作を発表する場を与えるといったもの。当時日本では制作を助成する映画祭が少なかったこともあり、【三人三色】を参考にしてCO2は地方発信の「つくる人をつくる」、すなわち“若手育成の場”として始動した。助成作品のプレミア上映の場を“映画祭”ではなく【CO2上映展(エキシビジョン)】と銘打ち、作品を作り上げることがゴールではなく、公開へ向けての第一歩であることをアピールしてきた。

 

全国から企画を募集し、その企画と過去の作品を元に審査、面談を経て5名の監督/シネアストを選考し、助成金を支給、映画制作をスタートさせる。第1回から第5回まではこのような過程のCO2での制作を条件とした「企画制作部門」と完成作品でのコンペを行い最優秀作品には賞金が授与される「オープン・コンペ部門」の2本柱として展開。第6回からは現在のスタイルである企画制作のみの募集となった。CO2は第7回の2011年度から、「大阪アジアン映画祭」の一部門【インディ・フォーラム部門】としての位置づけになり、CO2は【シネアスト・オーガニゼーション・大阪】に名称を変更。より広い観客の目に触れる機会を得たと言えるだろう。そして毎年5本だった助成作品が、第8回の2011年度から3本と大きく変わった。それが今回CO2東京上映展2013で登場する、常本琢招監督『蒼白者A Pale Woman』、安川有果監督『Dressing UP』、梅澤和寛監督『治療休暇』の3作品である。


第9回となる2012年度も含めると今まで助成したきた監督は40人。CO2 を期に商業映画や自主映画で劇場公開するなど活躍の場を広げる監督も多く、よく知られたところでは、『天使突抜六丁目』『ひとりかくれんぼ』シリーズの山田雅史監督(第1回『堤防は洪水を待っている』)、『オチキ』『ソーローなんてくだらない』の吉田浩太監督(第2回『お姉ちゃん、弟といく』)、『川の底 からこんにちは』『舟を編む』の石井裕也監督(第3回『ガール・スパークス』)、『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜聡子監督(第3回『ジャーマン+雨』)、『Playback』の三宅唱監督(第6回『やくたたず』)、『大阪蛇道』の石原貴洋監督(第6回 『VIOLENCE PM』)、『BADコミュニケーション』の小栗はるひ監督(第6回『どんづまり便器』)などが挙げられる。


第7回の大江崇允監督『適切な距離』は東京の公開を経て4月に関西の公開を終えた。今泉かおり監督『聴こえてる、ふりをしただけ』は、「第62回ベルリン国際映画祭 ジェネレーション部門」(ドイツ)にて【子供審査員特別賞受賞】。昨年『新世界の夜明け』を劇場公開したリム・カーワイ監督は、早くも新作『Fly Me to Minami~恋するミナミ』を撮り上げ、今年の「第8回大阪アジアン映画祭」のコンペ部門にて上映された。そして第8回の常本監督『蒼白者A Pale Woman』は、6月8日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトショー公開を予定している。


私がインタビューでCO2のお手伝いとして参加するようになったのが、第7回の2010年度からだ。2012年度の第9回までの運営の中で、CO2が抱える問題点も運営側の事務局・参加側の助成監督やスタッフ双方から指摘されている。大きく分けるとまず【制作へのサポート】。制作の現場では50万円という助成金(大阪のロケで10万円プラスされる)に対して、作品の規模はそれぞれの裁量に任されるため、実際は各自が自己負担で補うことがほとんどである。プロのスタッフの派遣や機材の確保、宿泊施設のサポートを求める声に、事務局の限られた予算の中でどう応えていくか。そして期間の問題。通常は5月に企画募集して8月に助成作品が決定し、撮影は12月、翌年2月に納品、という流れとなり、準備期間の短さが過酷な現場を招く要因になっている。事務局から大阪市に対して事業のサイクルの改善提案はしているが、現在のところ変更には至っていない。


そしてもう一つは【作品の質へのサポート】。助成監督が脚本を仕上げる過程で事務局が指導することにより、作品を一定のクオリティに上げることを狙っている。しかしやりとりの密度が年度によってばらつきがあるため、どこまで事務局が関与するのか明確な指針を打ち出すことは必要だろう。また、定期的なワークショップを行うことで脚本、俳優、スタッフの育成を目指しており、助成作品への参加で少しずつ成果を上げているとは言え、その結果が大きく反映されるにはもう少し時間がかかりそうだ。
作品の質の向上は、映画界の状況の変化に伴い最重要課題と言える。CO2始動当時は自主映画の劇場公開は難しい状況であった。近年は劇場での海外の作品の動員が減り、宣伝まで自分たちでこなす自主映画に劇場側も積極的に上映の場を提供するようになったことで、自主映画が劇場公開されやすい状況になっている。 商業映画と同じ土俵に上がり、一般の観客を動員できる作品が求められるのだ。以上のような点を踏まえて事務局では、大阪市に“人を育てる”という原点に立ち返ってサポート体制が強化できるよう大掛かりな体制変換を提案しており、今後の展開に注目したい。


簡単にCO2の流れを振り返ってみた。上に挙げたような問題点がある中、現場での闘いを経て毎年各組は満身創痍で作品を生み出す訳だが、苦労と作品の評価が 必ずしも一致しないのは致し方ないところである。第8回・第9回はグランプリに該当する作品が出ていない。今年3月に行われた第9回の閉会式では選考委員 代表の万田邦敏監督から投げかけられた率直な総評が印象的だった。「自己表現と、観客をどうやって巻き込むのかという、相対するもののせめぎ合いを、どれだけ意識化していくのかが映画製作を続けていく者の課題」もちろんCO2での評価が全てではないが、大先輩の進言を咀嚼した上で、次の作品にどう生かすのかが課題となってくることは言うまでもない。


CO2東京上映展2013にて、外に向けて第一歩を踏み出す 常本琢招監督『蒼白者A Pale Woman』、安川有果監督『Dressing UP』、梅澤和寛監督『治療休暇』の3作品が、劇場に足を運んでくださる観客の皆さまからどういった反応を頂き、どう次に繋がるのかが楽しみだ。作品に何か感じるところがあれば、足りないのは何か。素晴らしいのはどの瞬間か。率直に投げかけて頂けたらと願う。こんな例えをしていいのか分からないが、その行為は鮭の放流に似ている気がするのだ。皆さまの意見がシネアストの血肉になり、強度のある作品と共に劇場に還って来ることに繋がると信じるからである。